うちのカミさんは背が低く体も小さい。
よって、多くの男性ランナーたちからなめられた態度をとられてしまうこともしばしばだ。
「こんな小娘になんか抜かされてたまるか!」
とでも思うのだろうか、カミさんが追い越すと、張り合うようにしてダッシュしてきて追い越そうするタイプの人たちがいる。
こういったことは、マラソン大会で頻繁に起こることで、うちのカミさんは、よく年配の男性にライバル心をもたれてしまう。
そのたびにカミさんは、
『あ〜、うっとうしい人だなぁ。こっちは単に自分のペースで走っているだけなのに。ただあんたが遅いだけじゃない…』
と思うのだが、相手は「抜かされた!こんな小娘にワシが抜かされるわけがない」と屈辱を感じるのか、ムキになって追い越そうとしてくるのだ。
そもそもカミさんの走りはそんなに早いわけではないから、大会では人に追い越されることばかりだ。
それでも、ごくたまにではあるが、ペースの落ちたランナーを追い越すことになってしまうことがある。
すると、猛ダッシュしてカミさんを抜き返してくる。
でも、そのランナーのペースが落ちると、またカミさんが追い抜くことになってしまう。
抜かれたランナーは、再び猛ダッシュ。
と、いたちごっこのようになる。
大会では、こんなことがしょっちゅう起こるようだ。
しかし、きょうは多摩川沿いのジョギングで、カミさんに張り合うランナーが出没した。
大会ならまだしも、たかが日常の練習なのに、である。
そのランナー(20代くらいの男性)は、カミさんのはるか前方を走っていたのだが、カミさんよりゆっくりと走るタイプのランナーだった。
「追い越したら張り合ってきそうで面倒だなぁ」
と思ったカミさんは、わざとペースを落として走ったり、立ち止まってストレッチをしたり、水飲み場で水を飲んだりしながら、彼との距離をとるよう注意して走った。
しかし、あまりにもゆっくりなペースで走るタイプの人のようだったので、
「もういいや」
と、カミさんは彼を追い越すことにした。
すると、どうだ。
案の定、横並びになった途端、ダーッ!と猛ダッシュを始めたのである。
彼がダッシュしたのと、カミさんがペースを落としたのとで、二人の距離は再び開いた。
しかし、それもつかの間。
彼のペースは相変わらずゆっくりなので、カミさんが普通に走っていても、すぐに追いついてしまうのだ。
『めんどくせぇ男だなぁ〜。もういいや』
と思ったカミさんは、坂道で彼を追い越すことにした。
すると、小柄でチビなうちのカミさんに抜かされた彼は、闘争心をむき出しにしてダッシュ!
『こんなチビになんか負けられない!』
『知り合いでもないし、あんたとなんか張り合うつもりもない!』
二人は心の中でそう言い合っていたのだろう。
さすがのカミさんも、ちょっとキレた。
情けも遠慮も、そして容赦もなく猛ダッシュしたカミさん。
彼をぶっちぎり、距離を広げた。
後方であえぐ声が、どんどん遠ざかっていった。
気温も風もちょうどいい春の日は、走ると爽快な季節。
きょうは、カミさんにとって一段と爽快なランニングだったようだ。